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犬の炎症性腸疾患って何?「慢性嘔吐や下痢を引き起こす」

獣医師
相澤啓介
[記事公開日]  [最終更新日]
犬の炎症性腸疾患は、原因不明の嘔吐や下痢を引き起こします。
確定診断には全身麻酔を用いた検査が必要となり、臨床現場でも遭遇すると厄介な疾患です。
早期発見と早期治療のためにも、犬の炎症性腸疾患に対する知識を深めて頂ければと思います。
[ 目次 ]
犬の炎症性腸疾患って何?「慢性嘔吐や下痢を引き起こす」
犬の炎症性腸疾患という病気をご存じでしょうか。
慢性的な消化器症状を呈する疾患ですが、診断が難しいことも多く、非常に厄介です。
一方で、聞きなじみのない方も多くいるのではないでしょうか。
なぜ愛犬が嘔吐するのか、なぜ下痢が続くのか不安を抱える方もいるかと思います。
そこで本記事では、犬の炎症性腸疾患の症状、診断、治療から予後まで解説していきます。

犬の炎症性腸疾患とは

炎症性腸疾患(IBD)は、小腸または大腸の粘膜固有層における炎症細胞浸潤を特徴とする慢性腸障害を言います。
ヒトの医学において炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎とクローン病を示します。
しかし獣医療では、炎症性腸疾患には一部のアレルギー性腸炎などの、炎症細胞が絡んでいる腸疾患をすべて含んでいます。
また炎症性腸疾患は、浸潤している炎症細胞の種類と発生している部位によって以下のように分類されています。

・リンパ球プラズマ細胞性腸炎
・リンパ球プラズマ細胞性結腸炎
・好酸球性胃腸炎
・好酸球性結腸炎
・肉芽腫性腸炎
・組織球性潰瘍性腸炎

これらは好発犬種や予後に若干の違いがあるものの、症状や診断手順はほとんど同じとなっています。

炎症性腸疾患にかかりやすい犬種

一般的にはどの犬種も炎症性腸疾患に罹る可能性はあります。
一方、犬種特異的に発生しやすいものもあります。

・リンパ球プラズマ細胞性腸炎:ジャーマンシェパード、チャイニーズシャーペイ
・免疫増殖性腸症:バセンジー
・組織球性潰瘍性結腸炎:ボクサー、フレンチブルドッグ

犬の炎症性腸疾患の原因

犬の炎症性腸疾患の原因は、はっきりとはわかっていません。

しかし免疫異常、食事、環境、腸内細菌、遺伝的素因など様々な要因が関与していると考えられています。

犬の炎症性腸疾患の症状

犬の炎症性腸疾患では、慢性的な嘔吐および下痢、体重減少、食欲不振が一般的に見られます。
また炎症が進行すると、血便、メレナ(黒色便)、吐血が認められる場合もあります。

一般的な胃腸炎に対する治療に反応せずに慢性的な消化器症状が続く場合には、炎症性腸疾患を疑うこととなります。

犬の炎症性腸疾患って何?「慢性嘔吐や下痢を引き起こす」

犬の炎症性腸疾患の診断

犬の炎症性腸疾患の診断は、基本的には嘔吐や下痢を示す他の疾患を除外することで行います。

・血液検査
炎症性腸疾患に特異的な所見はないものの、他疾患を除外する上では必要となります。
C反応性蛋白(CRP:炎症マーカー)の上昇や、蛋白の漏出が起きている場合には低蛋白血症が確認できます。

・単純X線検査
慢性的な嘔吐や下痢の原因として、腸管以外の臓器に異常がないかを確認します。

・腹部超音波検査
十二指腸や結腸の腸管壁の肥厚が見られる場合があります。
また腸管リンパ節の腫大が確認できることもあり、その場合には消化器型リンパ腫との鑑別が必要です。

・内視鏡検査
犬の炎症性腸疾患の診断方法として最も有効な検査です。
十二指腸や結腸の粘膜の充血やびらん、出血が目視で確認できます。
しかし肉眼で著名な変化が起こらない症例も多く、腸の組織生検も同時に行います。

・組織病理学的検査
内視鏡下で採取した腸の組織を検査し、粘膜固有層への炎症細胞浸潤を確認します。
これによって確定診断を行います。
全身麻酔が必須であるため、気軽には行えない検査ではありますが、慢性的な消化器症状の原因を掴むためには必要となります。

・食物アレルギーの除外
低アレルギー食を与えることによって、消化器症状が軽減されるかを確認します。
しかし、一部の炎症性腸疾患は食物アレルギーが関与していることがあります。
そのため、炎症性腸疾患であっても、低アレルギー食に変更することで症状が緩和されることもあり、食物アレルギーを完全に除外することは困難とされています。

犬の炎症性腸疾患の治療と予防

基本的には薬物療法と食事管理によって治療が行われます。
しかしこれらの治療法は炎症性腸疾患を根治させるものではなく、あくまで症状をコントロールするものです。
長期的な治療は避けられないでしょう。

・食事療法
初期治療や補助療法として、低アレルギーで消化の良い食事を与えます。
また、大腸性下痢の場合には中程度の発酵性繊維を含まれているものが望ましいとされています。

・ステロイドの投与
犬の炎症性腸疾患における第一選択薬で、抗炎症作用や免疫抑制作用を期待して投与します。
通常は高用量で開始し、症状に合わせて漸減させていきます。
しかし完全には投薬を中止できないことが多くなっています。

・抗菌薬
一部の炎症性腸疾患では、小腸における細菌の異常増殖が起きていることがあり、抗菌薬が用いられることがあります。
しかしその効果発現の機序に付いてはよくわかっていないことも多くあります。

・免疫抑制剤
ステロイドの効果が不十分な場合に併用、または単独で使用します。

また犬の炎症性腸疾患に対する予防法は確立されていません。
早期診断と早期治療がカギとなります。

犬の炎症性腸疾患の予後

治療に反応すれば、症状のコントロールが可能と言う意味では予後は良好です。

しかし肉芽腫性腸炎や組織球性潰瘍性結腸炎では予後不良です。

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