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犬の皮膚炎の悪化を防ぐにはかゆみへの対策が肝心

ペット飼育管理士
増田暢子
[記事公開日]  [最終更新日]
かゆみは私たち人にとっても身近な症状なので、愛犬のかゆみは飼い主さんにもすぐ察知できます。しかし、命に関わるほどのことではないと軽視されがちなのも事実です。かゆみを放置していると、次第に悪化し慢性化していきます。今回は、犬のかゆみについて考えてみましょう。
[ 目次 ]
犬の皮膚炎の悪化を防ぐにはかゆみへの対策が肝心

かゆみの基礎知識

かゆみとは、「掻きたいという欲求を引き起こす、皮膚や一部の粘膜に生じる不快感」のことで、人にも犬にも共通した感覚です。ところが、人と犬とでは、かゆみのメカニズムについて違いがあります。人には、内臓疾患により発生する中枢性のかゆみと、皮膚疾患や精神障害などで発症する末梢性のかゆみがありますが、一般的な犬のかゆみは末梢性です。

知覚神経の内、最も細いC繊維の末端が外部からの刺激により活性化され、脊髄を通してかゆみシグナルを大脳に伝達するというのが、末梢性のかゆみです。また、知覚神経は、かゆみシグナルを伝達した神経末端とは別の神経末端から、神経ペプチド(特にサブスタンスP)を遊離して、血管障害を誘発し紅斑や膨疹を引き起こしたり、肥満細胞に働きかけてヒスタミンなどの化学物質を放出させて、さらにかゆみを誘発します。

このようなかゆみに対処するためには、まずかゆみの原因をしっかりと見極めることが大切です。かゆみの原因には、感染性(細菌、マラセチアなど)、寄生性(ノミ、ヒゼンダニなど)、アレルギー性(アトピー性皮膚炎、ノミアレルギー、食物アレルギーなど)、その他(免疫介在性疾患、ある種の腫瘍、精神的疾患、異物、局所の違和感など)に分類されます。

かゆみのレベルについては、一般的に下記のように分類されます。
<重度>
静止しても収まらないほど強く持続的なかゆみ。
ノミアレルギー性皮膚炎、犬疥癬など。

<中等度>
かゆくて眠れなかったり、散歩や食事中にもかゆみが出る。
重度ほどではないが、生活の質を落とす可能性があるかゆみ。
マラセチア皮膚炎、膿皮症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、脂漏症、多汗症など。

<軽度>
静止すればかゆみ動作がおさまるレベルのかゆみ。
睡眠・散歩・食事中に強いかゆみ動作は認められない。
毛包虫症、皮膚糸状菌症など

愛犬がかゆがっていたり、皮膚に炎症がみられるような場合には、これらのかゆみに関する基礎知識を前提に、獣医師に愛犬の様子を伝えられるようになると良いでしょう。

イッチ・スクラッチサイクル(かゆみー掻爬サイクル)

かゆみを感じた場合、大抵の犬は躊躇することなくかゆい部分を掻きむしります。犬がかゆい部分を掻くことで表皮細胞が損傷すると、その傷ついた表皮細胞を修復するためにサイトカインという化学伝達物質が放出されます。サイトカインは炎症を起こし、皮膚炎を悪化させると共に、肥満細胞からのヒスタミンの放出を促すため、益々かゆみが誘発されてしまうのです。これを、イッチ・スクラッチサイクルといいます。イッチ(itch)とは「かゆみ」を、スクラッチ(scratch)とは「掻く」を意味します。

かゆみが生じると、このイッチ・スクラッチサイクルにはまり込み、掻けば掻くほどかゆくなるという悪循環に陥るわけです。そして、皮膚炎は悪化し、慢性化していきます。その結果、赤く腫れていた皮膚はやがて黒くなり、ゴワゴワになり、えぐれてしまいます。愛犬に、このようなつらさと、四六時中つきまとうストレスを与えないためにも、とにかくかゆみを止めるための対策が重要になるのです。

よく「かゆみ」が出る犬の皮膚病

かゆみを止めるための対策は、かゆみを発現させている原因をしっかりと見極め、適切な治療とスキンケアを継続することが基本になります。犬によくみられる、かゆみが出る皮膚病を下記に紹介します。ただし、飼い主さんの自己判断で対処せず、必ず動物病院で診察してもらい、適切な処置を行ってください。

1. 膿皮症
かゆみの分類:感染性
原因:皮膚の表層や毛包内に常在するブドウ球菌の増殖
かゆみのレベル:軽度
初発年齢:若齢〜中高齢
その他:初期は、ブツブツや膿疱(膿のたまったもの)が認められる。初発年齢が若齢の場合は、背景にアトピー性皮膚炎のある場合が多い

2. マラセチア性皮膚炎
かゆみの分類:感染性
原因:皮膚の表層に常在する酵母様真菌であるマラセチアの増殖
かゆみのレベル:中等度
初発年齢:若齢〜中高齢
その他:初発年齢が若齢の場合は、背景にアトピー性皮膚炎のある場合が多い

3. 疥癬
かゆみの分類:寄生性
原因:外環境からのイヌセンコウヒゼンダニの寄生
かゆみのレベル:重度
初発年齢:いかなる年齢でも発症するが、若齢や老齢の犬では感染リスクが高い
その他:ドッグラン、ペットホテル、動物病院、トリミングサロンなどでの他の動物との接触で感染。人にも感染し、一時的にかゆみや皮膚炎が生じることもある

4. ノミアレルギー
かゆみの分類:寄生性
原因:外環境からのネコノミの寄生
かゆみのレベル:中等度
初発年齢:多くは5歳未満で初発
その他:背部、腰背部、尾部に症状が出やすい。人にも感染し、かゆみや皮膚炎が生じることもある

5. 食物アレルギー
かゆみの分類:アレルギー性
原因:食物アレルゲンの摂取によるアレルギー反応
かゆみのレベル:重度
初発年齢:6ヶ月未満、7歳以降
その他:軟便が多く、皮膚炎は肛門周囲に出やすい

6. アトピー性皮膚炎
かゆみの分類:アレルギー性
原因:ハウスダストや花粉などの環境アレルゲンに対するアレルギー反応であるが、遺伝的要因による
かゆみのレベル:中等度
初発年齢:3歳以下
その他:皮膚炎は、手足の裏、顔、頭部、胸部側面、腋窩部などに出やすい

かゆみに対する治療

かゆみに対する治療の基本は、かゆみの原因となる病原体の除去と、除去した状況の維持です。薬剤として、ステロイド剤や免疫抑制剤、分子標的薬などが使われます。よく使われるのは、ステロイド剤のグルココルチコイド、分子標的薬のオクラシチニブなどです。抗ヒスタミン剤は、皮膚の炎症反応に関与するヒスタミンをブロックする薬剤なのですが、かゆみを緩和する作用は軽度で、効果の発揮にも1〜2ヶ月を要することもあります。ただし、ステロイド剤は副作用の問題で長期使用には向きません。抗ヒスタミン剤の場合は、長期使用による副作用が軽微です。

薬剤によるかゆみの治療と並行して、日常的にスキンケアを行うことが大切です。それぞれの皮膚病により、適したシャンプーや保湿剤があるので、獣医師とよく相談しながら選択しましょう。

スキンケアの主な手順は下記の通りです。
1. ブラッシング、コーミング
2. クレンジング、入浴(必要に応じて実施)
3. すすぎ&シャンプー&すすぎ
4. 薬用シャンプー&すすぎ(必要に応じて実施)
5. 保湿
6. ドライイング
7. アフターケア(外用剤塗布、追加保湿等を必要に応じて実施)

特に気をつけたいのは、シャンプー後の保湿とドライイングです。皮膚の表面は、水分を保持することで過酷な外環境からの異物侵入や体内からの必要成分の漏出を防いでいます(皮膚バリア機能)。そのため、シャンプー後の保湿は非常に重要です。シャンプー後だけではなく、日常的にも保湿を行うことで、皮膚症状が軽減したという報告もあります。愛犬の皮膚症状に適した保湿剤で、しっかりと皮膚バリア機能を守ってあげましょう。

また、シャンプー後のドライイングが不十分なため、指の間のような皮膚が重なる部分にトラブルが発生することもあります。十分なドライイングにも気をつけましょう。ただし、熱いドライヤーの風を当てたり、過度にタオルでこすったりブラッシングしたりすることで、かえって皮膚バリア機能を損傷することもあるので、状況に応じた適切なドライイングが大切です。

動物病院との連携で適切な対処を!

飼い主さんの自己判断で勝手に外用剤の塗布を中断したり、症状に合わないシャンプーや保湿剤を使用すると、かえって症状を悪化させ、愛犬を苦しめることになりかねません。必ず、動物病院で診察してもらい、獣医師や看護師と連携して適切なケアを行いましょう。

かゆみがひどくてどうしても止められない場合は、一時的にエリザベスカラーの使用も考えましょう。カラーのストレスは一時的なものですが、かゆみが慢性化すると、愛犬は一生涯かゆみのストレスに悩まされることになるかもしれないのです。

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